呼吸コントロールでメンタルをコントロール
- ぴょん・あえり
- 2021年10月11日
- 読了時間: 5分

呼吸は自律神経の中で唯一、自分でコントロールできる。
注目されるようになってきたヨガやマインドフルネスなどでも、呼吸法はとても重視されている。
呼吸コントロールは一体どんな影響を身体にもたらすのか?
医学的な根拠とは?
こういった疑問に答える情報をシェアしたい。


1. Dr. Rahul Jandial(ラウール・ジャンディアル医学博士)という人
Dr. Raul Jandial(ラウール・ジャンディアル医学博士)は、アメリカの脳神経外科医。
現在、City of Hope という非営利の臨床研究施設で執刀医として勤務するかたわら、脳神経の研究にも携わっている。また、脳神経系のガン手術エキスパートとして若手を育てる教授でもある。
まるで小説から出てきたようなスゴイ人だ。
特にガンの手術では大変著名な人で、ガン研究では数々の賞を受賞している。
手術に関する本もたくさん執筆しており、生死の境に直面する執刀医としての心境や、医療を通してラウール氏が学んだ教訓などが多くの反響を呼んでいる。
残念ながら、本の邦訳はまだされていないようだ。
2. ポッドキャスト「Feel Better Live More」
今回参考にしたのは、ポッドキャスト「Feel Better Live More」の中のラウール氏へのインタビュー回。
エピソード名は「Stop Negative Thoughts(ネガティブ思考を止める)」。
このポッドキャストを運営するDr. Rangan Chatterjee(ランガン・チャテジー)はイギリスの精神科医で、メンタルヘルスのトピックが中心だ。なかなかクセのあるイギリス英語を話す人。相手の話を引き出す質問が上手い人だ。
3. 走ったわけでもないのに呼吸が速く(荒く)なるのはなぜ?
呼吸が速く(荒く)なるには様々な状況が考えられるが、大きく分けると
・運動など身体に負荷がかかった時
・驚いた時やショックを受けた時など、精神的な負荷がかかった時
の2つ。
身体に負荷がかかった時は生理現象として理解できるが、「精神的な負荷がかかった時」に呼吸が速くなるのは、なぜなのか?
これは人間が生まれつき持つ本能と結びついている。闘争・逃走本能としてよく知られる、生存本能だ。その昔、人間を襲う危険といえば肉食動物に出くわすなど闘争や逃走につながるもので、その闘争や逃走には筋肉を酷使する必要があった。
筋肉を動かすにはエネルギーがいる。身体ではグリコーゲンという糖類を酸素で燃やしてエネルギーを作り、筋肉に送られる。
だから、闘争・逃走本能が刺激されると、「筋肉を動かすためにエネルギーを作らねば!」と脳が判断し、そのために酸素をいっぱい取り込もうと、呼吸が速くなるのだ。
ちなみに、グリコーゲンを酸素で燃やしてエネルギーを作る過程で、水と炭素ガスが産出される。この二酸化炭素を外に出すためにも、呼吸が速くなる。
4. 呼吸が速く(荒く)なる=緊張・不安感が高まる
ラウール氏はインタビューで、呼吸が速く(荒く)なる身体的リアクションが緊張・不安感の高まりとつながっていると説明している。
運動したわけでもなく、精神的な負荷(驚き・ショックなど)で呼吸が速くなった場合、実際には筋肉は使われない。すると、必要以上に酸素を吸い、必要以上に二酸化炭素を外に出すことになる。
体内で二酸化炭素の濃度が低くなると、痙攣(けいれん)、錯乱、興奮といった身体的な反応が現れる。
Hyperventilating without also accompanied physical activity makes us nervous.
身体的な活動の伴わない過換気は人を緊張させるんだ。
ラウール氏はそう説明する。
彼自身、とても難しい手術の前や手術中に呼吸が荒くなることがあるようで、そういう時は呼吸コントロールで自身の緊張や不安を鎮めるそうだ。
5. 呼吸コントロールで得られるもの
ラウール氏はインタビューで、「いざという時の予期はできない」と言う。「予期せぬ事態やアクシデントに襲われた際、誰だって恐怖を感じ、パニックに陥り、不安に駆られるものだ」と。
そんな時に誰にでもできる効果的な対処法は、呼吸のコントロールだ。
精神的な負荷がかかった時、本能的な身体リアクションとして呼吸が荒くなる。その呼吸をゆっくりと落ち着いたリズムにコントロールすれば、本能は逆にそれを身体リアクションと受け取り、「身体はリラックスしているので危険は無し」と判断する。
発想としては、本能に駆られて身体リアクションを起こすのを止め、身体リアクションから本能に影響を与えていくイメージだ。
緊張・不安感などを高める闘争・逃走本能は、脳の奥深くにある本能をつかさどる部分でコントロールされている。これは人間に特有のものではなく、動物にもみられる構造だ。
それに対比すると、理性・論理的な思考をつかさどる部分など、もっと高度で人間特有の構造は脳の表面部分にある。
人間は本能的な行動を理性や論理的な思考で抑えることができるが、闘争・逃走本能についてはそれが上手く働かないこともしばしば。生死が関わる場面(と脳が判断しているわけだが)では、躊躇する時間などないからだ。
つまり、予期せぬ事態やアクシデントに襲われた際は、どうしても身体リアクション(呼吸が荒くなる、発汗、動悸など)が先に現れる。
その反応を少しでも早くおさめるために有効なのが、呼吸のコントロール。
まずは身体に落ち着きを取り戻させることで、それを受けて脳が「危険なし」と判断する。
闘争・逃走本能が静まれば、緊張も解け、不安感も静まっていく。

呼吸コントロールには様々な方法がある。
機会があれば、それらを紹介する記事も投稿したい。
私の場合、吸うより吐く息を長くするのが合っている。3~4秒吸って、6~8秒かけて吐く。瞑想の時、パニック発作が出そうな時、予期不安が高まりそうな時――いろんなシチュエーションで、この呼吸法を実践している。
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